男女共同社会

ここは日本のとある村
男は働き、女は働き、平和に平和に暮らしてました
しかしです、この村には毎年12月に悲劇が起こるのです
それは、山から怪物が下りてきて、その年いちばん美しい娘を生贄としてさらってゆくのです
毎年12月が近づくと村の娘達は気が気ではありません
おしろいをやめ、ボロボロの服を着、しまいには暴飲暴食で自ら太る娘さえも
どの娘をさらってゆくかは全て怪物の決断なのです
村の娘を一列に並べ、至近距離で見定めてゆく様は村人にとって恐怖そのものです


今年もその季節がやってきました
村長が提案します
「今年こそは黙って娘をくれる訳にはいかない。なんとかせねば」
そういって村長が提示した案は比較的誰でも思いつきやすいものでした
村の男子が小娘に変装し、怪物へとさらわれて、そして過去にさらわれた娘達を助ける、というものでした
さらわれた娘達は生存しているのかすらわからない
もしかしたら怪物が喰ってしまったのかもしれない
しかし怪物のもとへと男子が行くしかなかったのです
そこで白羽の矢が立ったのがヒデオ
ヒデオは村でも有名なかわいらしい男子です
お目めがパチクリしていて身長も低いとあって女装するにはもってこいでした
さっそく嫌がるヒデオを制止して女装させます
「ほほう、案外見れる容姿になったようじゃ。今日からお前さんはヒデコじゃ」
あとは怪物に並いる娘をおさえてヒデオを選んでもらうだけです
ヒデオの両親も自分達の息子、いや、娘の活躍を期待しています


ついに時はやってきました
大きな足音をたてて、今年も怪物が村にやってきたのです
「おいー、今年ももらいにきただー。黙ってよこせー人間どもー」
地鳴りのような声で村人を脅します
しかし今年の村人は違いました
作戦があるために落ち着いています
「さぁさぁ、娘たち、お並びなさい」
村長が娘たちに声をかけます
もちろんヒデオも列の中に入ります
「お好きな娘を一人、どうぞ差し上げます」
「む、今年はやけに態度が良いな、まぁいい」
そう言って怪物は娘の顔、体、ひとつひとつを丁寧に見ていきます
「ぬ、今までにない種類の娘がいるようだな今年は」
ヒデオのところで怪物の目がとまりました
村人はゴクリと息を飲みます
男が女装しているとバレてしまってはどうなることかわかりません
しかし怪物は少しうつむいて考えた後についに言いました
「よし決めた、今年はこの嬢ちゃんをもらってゆく。名をなんという」
「は、はい、ヒデコです!」
「ヒデコか、気に入った。山へ帰るぞ」
「は、はい!」
村人はみな胸をなでおろしました
まさかこんなにも作戦がうまくいくなんて
娘達、娘を持つ親は安心し、村は平和に包まれました
ヒデオは両親の目線を背中に感じながら、怪物と共に山へとのぼっていったのです


怪物は黙って何も言わず、もくもくと山の奥へと行きます
そのすぐ後ろをヒデオはついていきます
さらわれた娘達は山奥にいるのだろうか
きっと僕が産まれる前にさらわれた年配の女性もいるはず
ああ、なんて事情を説明すればいいのだろう
ヒデオの頭の中に考えがめぐりめぐります


「ここだ、ここに入れ」
怪物がようやくヒデオに話しかけました
怪物が指差す方向には大きな洞穴がありました
林間の次は洞穴
暗い場所を怪物と歩くのは少し恐いものでした
しばらく歩くと何やらライトに照らされた部屋に着きました
怪物がセンサーに中指をかざすと岩壁に突如扉が現れたのです
するとそこには宙に吊るされたゴンドラが
「乗れ、これで魔境界に行くぞ」
「は、はい!」
行き先はなんなのか、ヒデオは不安でいっぱいになったのです
窮屈なゴンドラ、自然と怪物と密着します
女好きの怪物、さてはここで体を触られたりするのだろうか
ヒデオはさらに不安いっぱいになりました
するとどうでしょう、怪物が神妙な面持ちでヒデオに質問してきました
「お前さん、女じゃないだろ?」
「・・・は、はい!?」
ヒデオは耳を疑いました
「お前、男だろ?」
「い、いえ、めっそうもない!ヒデコです、ヒデオではないです!」
「いや、分かってるんだ。お前が男と分かってさっき選んだ。すまないな」
「こ、こちらこそごめんなさい!」
怪物が言うには、男であるヒデオに相談したいことがあるらしい
「人間界の女はもっと優雅で上品で高貴で端麗なものだと思っていたよ」
「え、そうではないんですか?」
ヒデオが今まで目にしてきた光景、さらわれてゆく娘達
それはどの娘も村の中でも有名で上品で美しく、とても華麗な美女ばかりでした
怪物の言うことが理解できません
「もう少しすれば言ってることも分かるべさ」
「は、はい」
そう言って怪物はまた黙ってしまった


「さぁ着いたべ」
ゴンドラを降り立った場所は山頂
そして山頂から見下ろすとそこには人間界と見違える世界が広がっていたのです
「下に降りるべ、さっき言ってた意味が分かるべさ」
そう言って山をずんずんと下りて行きました
道行く人間は全て女性
トロールしている警官も婦人警官
店に入っても店員客ともに全て女性
トイレは男女用に分けられてすらいない
「これは・・・」
「全員あの村からさらった娘達だよ」
中にはもう老女すらいます
怪物は何年前から村娘をさらっているのでしょう
「よーく女どもの動きを見てけれ」
なるほど、怪物の言ってる意味がヒデオには分かりました
言葉遣いは汚く、ポイ捨ては平気でする
ベンチに座ってる女性は脚を広げ、屁を放出している
「なんで女ってこんなに下品だべか・・・?」
「確かに・・・」
「この様を、同じ男にいつか見てもらいたかったんだ。理想と現実が違うってことを」


怪物が言うにはこういうことでした
酒池肉林を求め、人間界の女性を自分の世界にさらってしまおうと
そして上品で華麗な女と優雅に暮らそう、そう望んでいた
しかし女性だけの世界になるとその姿は変貌する
異性という存在を失った女性はいかに醜いか
品のカケラもこの世界には存在していない
ずっとこの悩みを抱えていた
相談出来るのは同性の男しかいない、そこでヒデオをさらったと


「ヒデオ、女もんの服を脱いでこれ着れ」
そういってヒデオはふりふりの服を脱ぎ捨て、普段着へと着替えたのでした
するとどうでしょう
「あん?てかあれ男じゃね?」
「ぬあ!マジだよ男だよ、うっわ今日どうでもいい服着てきちまった!」
「やべぇ気軽に屁すらぶっぱなせねぇ」
下劣な会話が飛び交います
「あれ、ヒデオじゃん!なんでこんなとこいんのー?キャハ、うけるー」
「ど、どうも」
話しかけてくれたのは去年まで村にいたシオリでした
シオリは村でも有数の美女でヒデオはひそかにその上品さに魅かれていたのです
しかし今のシオリはビーサンをひっかけて髪もボサボサ
とても美しいとは言えませんでした
「ほれ、いくら可愛い娘を連れてきても数日でこんなんなっちまうんだ」
怪物は村では決して見せない悲しい顔をしていました


その後紆余曲折あって魔境界にも男が大量流入
女性は日ごとに上品さを取り戻していったのです
「酒池肉林なんて存在しないんだな。男と女がいて、初めて女性は女性になる」
「独り占めしちゃだめですよ、怪物さん」
「人間、ごめんな」
「ううん、わかってくれればいいんです。社会には男女両方がいなければならないってこと。男女平等がいちばんです」
「ヒデオ・・・いいこと言うな」
「じゃ、そういうことでシオリさんに告白してきます!」


めでたしめでたし